トリウム炉についての講演会

平成16年4月29日

講師:「トリウム熔融塩国際フォーラム」代表古川和男氏

最近、特に燃料サイクルについての議論が活発である。その中でしばしばトリウム炉が話題に上がる。「エネルギー問題に発言する会」では、長年に亘りトリウム炉の研究を進めておられる古川和男氏に講演をお願いした。同氏が単純化を狙って設計された小型熔融塩炉FUJIについて説明して頂いたので、その概要を報告する。

 

1.トリウム炉「FUJI:不二」とは

天然のトリウム(Th232)は核分裂性はない。しかし、これが中性子を1個吸収するとTh233となり、β崩壊してU233となる。U233は人工の核分裂性核種でありこの核分裂を利用しようというのがトリウム炉である。

液体燃料は一つの理想と考えられる。米国のオークリッジ国立研究所は1950年、フッ素を使った塩BeF2LiFはU、Th、Puのフッ化物に対し十分な溶解度を持ち、中性子吸収の少ない点からも、原子炉には理想的な塩であることを見出し、これをフリーベ(Flibe)の愛称で呼んだ。

フリーベの最低の融点は364℃で、熔融状態でもイオン化している。熱容量も大きく、500℃以上で低粘性の常圧液体として使える。この液体は化学的に安定な物質で化学反応せず、耐腐食性の十分な材料を選定しやすいという特徴も持っている。

このフリーベは軽い元素で構成されているので、熱中性子炉として利用するのが適している。減速材としては黒鉛が最適である。常圧の炉本体容器(NiにMoとCrを加えたハステロイN)内に減速材としての黒鉛を配置する。反応度の最適化を狙い、黒鉛には炉中心部と外側で直径の違った穴を開け流路としている。この中を、フッ化プルトニウム等を加えた熔融塩を流せば、炉心部で臨界状態になり核分裂反応が進行する。その結果発生した中性子により、ThがU233核分裂性物質に変換し、核分裂反応を継続することができる。

反応熱で700℃に温度上昇したフリーベを循環ポンプで中間熱交換器に導き、2次系に熱を伝え、約560℃で炉心に戻す。二次系は経済性を考えホウフッ化ナトリウムにフッ化ナトリウムを溶かした2元系熔融塩を使う。これを蒸気発生器に導き、火力発電並みの高温蒸気を発生させ、発電することができる。

 

2.トリウム炉FUJIの特徴

オークリジ研の溶融塩増殖炉MSBRは増殖を狙っていたが、検討の結果、この機能をあきらめれば炉室に内蔵させた連続化学処理装置が不要となり単純化を図れる。しかも、黒鉛の寿命が長くなり、少なくともフルパワー運転15年の寿命期間中は交換不要である。また、炉の小型化が可能になる。

FUJIは常圧の鋼製容器内に、流路を設けたグラファイトを配置し、その中を、フリーベを循環するだけの単純な構造である。フリーベはドレンタンク内に蓄えられているが、この中のU233の濃度を確保し、時々僅かのトリウム塩を追加し、炉内に供給するだけで、核分裂反応を極めて安定な状態で継続することができる。反応度制御は炉心流量のコントロールで十分可能であり、制御棒もいらない位である。念のため黒鉛の制御棒を塩の浮力を利用して炉心部から引き上げることにより、炉心の反応度制御を行うことができる。

核分裂反応の結果発生したゼノンやクリプトンは循環ポンプに設けたカバーガスの自由液面から容易に抜き去ることができる。また発生する微量のトリチュウムは中間熱交換器の金属管の中を通って二次系流体に出てくるが、カバーガス中の水分として取り除く。その他の核分裂生成物については、特に浄化しなくとも運転継続に支障がないことはMSREの4年間の運転で実証済みである。

 

3.格納容器および安全性・保守性

炉心容器と、循環ポンプ(モーター部分を除く)、熱交換器は格納容器内に収納している。格納容器内は常時500℃に保っている。これにより原子炉容器などは保温する必要はなく、裸のままであるため監視・点検は容易である。

可動部分は循環ポンプだけであり、配管などから熔融塩が漏洩しても常圧であり安全である。熔融塩が漏洩したとしても、燃えたり変質したりしないので、受け皿から受けタンクに導けばよい。炉外には減速材はないので臨界事故の心配はない。

この炉は自己制御性に優れ、重大事故などの発生は考えられない。

 

4.核拡散抵抗性その他

U233は極めて強いガンマー線を放出するため、アクセスがしにくい。テロなどが持ち出そうとしても、監視は容易である。従って核拡散抵抗性は極めて高いということができる。

燃料資源の点でも地球上に大量に存在し問題がなく、燃料再処理という点でも炉寿命終了後にバツチ処理すればよく、TRUも殆ど発生しないという特徴を持っている。

詳細は古川和男著の文春新書「原発革命」を参照されたい。

 

●講演を聴いて

原理的には非常に単純な炉であり、これが実現すれば正に「原発革命」である。
JNCなどで基礎研究することは有意義なのではないだろうか。

オークリジ研の研究実績があるとはいえ、最近の知見をも加え、下記のような問題点をクリアーにするだけでも研究する十分な価値がある。

聴講者の心配は次のような点である。

   実用化に当って、現在の軽水炉についての安全審査指針、規格・基準から対比すると、単純だからという理由からだけで何もしないわけには行かないであろう。どういう基準で考えればよいか。

   炉内の流量バランスが設計値通り保たれるか。

   炉心流量等炉内の状態についての計測が必要と思うがどのように行うのか。炉の寿命中に損傷した場合のメインテナンスの考慮をどうするのか。

   高温な格納容器内の運転中計測の信頼性についてどう考え、故障時の対応はどうするのか。

   一次系の故障として何が考えられるのか、その時どう対処するのか。

   炉内および一次系についての供用期間中検査等についてどのように考えればよいか。

   想定事故として何を考えればよいのか、その場合の工学的安全施設はどうなるか。

などが課題であろう。

   機器については、循環ポンプ、熱交換器、炉内の黒鉛の性状、制御棒駆動機構、隔離弁、高温下での各種計測装置、高温格納容器の設計などが課題として上げられよう。

   熔融塩による予期せざる腐食、核分裂生成物の長期運転での影響等につい実証する必要があろう。

文責:益田恭尚